くわにゃん(@kuwanyan98)です。
投資に役立つ経済知識の第10弾は「ピケティのr>gから株式投資の有効性を分かりやすく解説してみる」についてです。
ここ2ヶ月間に渡ってGDPの基本的な意味とGDPが持つ三面等価の原則を解説しました。
三面等価の原則によるとGDPは「生産額=支出額=所得額」という3方向からみて全て一致するというものでした。
✅関連記事;【投資に役立つ経済知識】第8弾 GDP(国内総生産)っていったいなんだ?
そしてGDPの一面である所得額の増加が企業の利益につながり、それに連動する形で株価も上昇する関係性を示しました。
✅関連記事;【投資に役立つ経済知識】第9弾 GDPと株価の関係。だから僕は長期投資がやめられない。
今回の記事では国全体の所得額の合計であるGDPが企業・株主・労働者にどのように配分されるのかを、ピケティが示す「r>g」の関係性から解説しようと思います。
ピケティって誰?
トマ・ピケティは1971年にフランスで生まれ、今世界で最も注目されている経済学者の一人です。
ピケティは、15年間かけて収集した3世紀にもわたる経済のデータを元に、「21世紀の資本」という本を2013年にフランスで発表しました。
この本では資本主義が構造的に抱える格差という矛盾を過去の膨大なデータを元に指摘しており、「21世紀の資本」は世界中で翻訳され、700ページにも及ぶ経済書でありながら、累計160万部以上も売られている本です。
日本でも一時は書店の店頭に山積みにされ、ブームとなりました。
特にピケティの主張の中でも資本主義の根本的な矛盾を表す「r>g」は有名です。
ピケティの主張を簡単にまとめる
・歴史的に見て資本収益率(r)>国民所得の成長率(g)
・富の格差を是正するには資本への累進課税が必要

ピケティの主張を簡単にまとめると、資本主義は「富む者は益々富み、貧しい者は益々貧しくなる」社会であり、それを是正するには「お金持ちからたくさん税金を取る」事で富の再配分をしようというものです。
世界中で富の格差は広がってきている
世界で富の格差が広がっている状況は以下の、米国とヨーロッパの上位10%層が総所得に占める割合を見れば一目瞭然です。
※出典;21世紀の資本
1900年から1950年は急激に富裕層のシェアが落ちてますが、この時期は2つの世界大戦やインフレ、世界恐慌、累進税などによる異例の格差是正期であったとしています。
その後特に1980年以降はアメリカでスーパー経営者と呼ばれる超高額報酬者が増えるようになり格差が広がって行っています。
以下に世界の企業の年間報酬の一例を掲載します。
企業名 | 名前 | 報酬額 |
グーグル | サンダー・ピチャイ | 約210億円 |
マイクロソフト | サティア・ナデラ | 約89億円 |
タイムワーナー | ジェフ・ブックス | 約35億円 |
アメリカにはこのような企業がたくさんあり、これらトップ企業の経営者や役員に報酬を多く出すことで格差はますます広がっているという状況です。
日本の経営者はここまで高額な報酬をもらっている方は少ないものの、日本でも格差は広がっていっています。
歴史的に見て資本収益率(r)>国民所得の成長率(g)
r>gとは
「r>g」のうちrは資本収益率を表し、gは国民所得(GDP)の成長率を表します。
資本収益率rとは具体的には、土地や建物、機械などの実物資本と、株式や債券などの金融資本の収益率のことです。
国民所得gとはGDPを表すので、先ほど解説した資本が生み出す収益と、労働所得の合計です。
GDPの三面等価の原則で「生産額=支出額=所得額」のうち所得額で考えると、
GDP=資本収益+労働所得
となり、結局は国民全体で得たGDPを資本と労働でどのように分け合うかということです。
これが仮に「r=g」だとすると資本の収益率も国民所得の成長率も同じになるため、国民所得(GDP)に占める労働所得の分配率も一定になります。
ところが現実にはピケティが分析した長期的なデータから「r=g」とはならず「r>g」になっているからこそ、格差が広がっていると指摘しました。
※出典;21世紀の資本
上記のグラフではなんと西暦0年からずっと「r>g」だったと歴史的に証明されています。
このグラフからすると資本収益率rはおおむね4〜5%の間にあり、投資で得られる収益とだいたい似通っています。

ピケティのすごいところは「r>g」という数式を実際のデータで示しており、さらにそのほとんどのデータを公開しているところです。
ところで0年からのデータをどうやって収集したのでしょう。。。
r>gを身近な例で考える
「r>g」の不等式を身近な例で考えてみます。
資本収益率rは株式運用の収益率、国民所得の成長率gはサラリーマンの給料の上昇率に置き換えて考えてみます。
株式運用の対象として全世界の株式市場に投資するVTに投資した場合とします。
2007年から2017年までのVTの配当込みのチャートは以下のようになります。
10年間で右肩上がりに上昇し、2007年当時と比べて1.879倍になりました。
これを複利計算すると年平均6.5%程度の利益率でした。
一方私たち日本人サラリーマンの賃金上昇率はというと全く上がっていません。。。
※厚生労働省 「毎月勤労統計調査」を元に作成
上がっていないどころか、むしろ下がっています。
この内容を改めて書くと「r(6.5%)>g(0%)」と圧倒的な差となっており、言い換えると「サラリーマンは一生懸命働いても平均給料は全く増えなかったが、資本家は働かずに投資をするだけで多くの利益を得ることができた。」ということです。
なんとも悲しい話ですが、これが資本主義の現実です。
1億円の資産を持っている資本家が6.5%の収益率で複利運用した場合と、年収650万円のサラリーマンが生活費を除いた額を貯金し続ける場合を例にシミュレーションして比較してみます。
細かい条件は以下の通り。
・サラリーマン年収650万円の根拠は、生涯給与約2.6億円÷40年で計算
・資本家、サラリーマンともに生活費を年間500万円と想定
・サラリーマンの平均給料は増えないものと想定(1996年〜2015年の平均給与伸び率−0.6%)
この条件で計算した結果は以下の通りです。
1年後の年間収益は650万円と同じですが、年数が立つほど資本家の方が多く稼ぐようになり、40年経つと資本家とサラリーマンの年収の差は1,599万円、資産の差は約3億円まで膨らみます。
サラリーマンが大きなストレスを抱えながら一生懸命働く一方、資本家が行うことは株や不動産に投資するだけです。
ただ資本を持っているかいないかの差で格差がどんどんと広がっていく仕組みが「資本収益率(r)>国民所得(g)」です。
経営者になったつもりで考えると「r>g」が分かる
続いて自分が経営者である場合を考えてみます。
企業にとって収益は、「収益=売上ー費用」で計算されます。
この中で労働者への給料は費用の方に計上されるため、私がもし経営者であればできる限り費用を抑えて利益を最大化することを考えます。

あんたが経営者なら、働く人をこき使って、休みはとらせず、残業代は払わず、最低賃金すれすれのところで働かせて、交通費は支給しない

俺、そんなにひどくないよ。。。
いずれにしても経営者は利益を追求することを考え、当然ながら株主もそのように行動する経営者を選び、それが求められます。
それができない経営者はすぐに首になるでしょう。
そのため経営者としては労働者から不満が出ない程度の賃金上昇率にとどめ、自分を含めた株主に利益が還元されるよう配当金を多くしたり、自社株買をしたり、企業を買収したりして、企業としての価値を高めようとします。
そうすることでさらに株価は上昇し、株主などの資本家に利益が還元されていきます。
このことからも「資本収益率(r)>国民所得(g)」が成り立つのが感覚としても理解できます。
富の格差を是正するには資本への累進課税が必要
ここまでで資本主義社会では「r>g」の関係から所得の格差がますます広がっている状況を解説しました。
資本にかける累進課税とは
ピケティはこの状況を打開するために所得に対して税金をかける所得税ではなく、保有している資産に対して税金をかける累進資本課税が必要だといっています。
例えば以下のような純資産に対する課税を提案しています。
純資産額 | 累進課税 |
6億円以上 | 2% |
1.2億〜6億円 | 1% |
1.2億円以下 | 0% |
※120円/ユーロで円に換算
このように所得に対してではなく、持っている資本に対して行う必要があるとピケティは提唱しています。

ちなみに6億円の資産を持っている人であれば、年間で6億円×2%で1200万円の税金がかけられるということです。
たった2%かと思いますが、おいそれと受け入れられる金額ではないですね。
そして国がお金持ちから税金をかけることで得られた税収は、公共投資や社会保障の充実、貧困層への手当などを行うことで、富の再配分が行われ格差が徐々に解消されていくとしています。
主張は分かるが現実的に是正するのは難しい
ピケティの主張は正しいものの実際に実行に移すのは非常にハードルが高くなります。
なぜならある国でお金持ちから税金を多く取るようにしたとすると、お金持ちはその国から逃げて、別の税金の低い国へ移ってしまうからです。
じゃあ世界中で一律お金持ちから税金を取れば良いかと思いますが、お金持ちには権力者も多く、強い反発が起こることは必至です。
また現実としてお金持ちの資本が株式を通してお金が必要な人たちにお金が流れ、世界経済の発展につながっている面も多いにあります。
さらに、資本家の中には一生懸命頑張って資産を築いた人も多くいるはずで、資産を築いたためにたくさん税金で持っていかれては、資本主義のいい意味での競争性も失われる可能性があります。
こんな感じでお金持ちから税金でお金を取るというのは、現実的には難しいでしょう。
資本主義社会で広がっていく格差に対して、個人はどう立ち向かうか
「資本収益率(r)>国民所得(g)」の関係が成り立つとすると労働者と資本家の貧富の差は広がるばかりです。
この貧富の差が広がり続ける資本主義社会の現状をどうにかするには、以下の2つの選択肢しかありません。
・資本家になって資本主義の原則にのっかる
どうも1つ目は私にはハードルが高いです。
やるなら2つ目の資本家になるという選択の方がハードルが低くて手取り早いです。
そして資本家になるには自分で会社を作って経営者になる方法と自分のお金を株式や不動産などに投資して運用益を大きくしていく方法があります。
私の場合はこの中では経営者になるよりも株式を保有する方を選びます。

経営者になるためには、能力・運・資金力が必要になりますが、私にはそんな能力もバイタリティもありませんし、経営者には倒産して一文無しになってしまうというリスクもあります。
一方株式を保有するというのは運用による資産の増減というリスクはあるものの、少額から誰でも簡単に資本家になることができます。
株式を保有するということは、どんなに少額でも資本家になったことには変わりなく、資本主義の「資本収益率(r)>国民所得(g)」の(r)側に入ったことになります。
そして「r>g」の関係は投資の利益の関係と同じように複利でかかってくるものなので、投入する資本はできるだけ早い時期(若い時期に)多くを投入したほうが有利です。

株式は長期で運用するほど安定して右肩上がりになることが歴史的に証明されているので、コツコツと長期にわたって資本を積み上げて、資本主義の恩恵を受けたいですね。
まとめ
ピケティが主張する「資本収益率(r)>国民所得(g)」を中心に資本主義が抱える問題点をまとめました。
資本主義社会というのは、株主などの資本家が自分たちの利益を追求するためにたくさん物を作り、それをメディアなどを巧みに利用して、労働者に無駄な消費をうながし、一生労働階級から這い上がれないようにする社会。。。と言えば言い過ぎでしょうか。
労働階級から一生這い上がれないかは別にして、世界中で大量の食料品や衣類が毎日余って捨てられていることや競争が止まらないゆえに地球環境まで破壊されつづけているという世界の現実を考えると、あながち言い過ぎでは無いように感じます。
まとめの最後で話がそれましたが、「資本収益率(r)>国民所得(g)」は2000年以上の実績のある統計データであり、資本主義社会で生きる以上資本家になって(r)側にまわった方がその恩恵を受けられます。
なので私は株式投資を継続します。
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